前回の投稿に続いて「リーダーシップ」について深堀しようかと思いましたが気が変わりました。(笑)それは、イギリスのEU離脱決断という大きな事件が起きたからです。

このEU離脱を考えた時、私が普段研修のテーマにもしている「マーケティングの考え方」の大事な部分を正に見たと感じたので、それを書くことにしました。

結論を先に書くと、人に何か行動(例えばマーケティングであれば「購買」)を起こさせようと思ったら、「理」ではなく「情」に訴えた方が良いということです。

英国民を動かした「情」とは?

今回のイギリスによるEU離脱という国民の意思決定は、正に「情」が「理」に勝って起きたことだと考えます。

「理」は何を意味しているかと言えば、「理屈」「理論」「論理」「合理性」という考え方です。ロジックと置き換えても良いです。とにかく論理的な事実を基にした判断ということを表しています。

反対に「情」が何を表しているかと言えば、「感情」「情緒」「情熱」「心情」といった気持の部分です。エモーションと置き換えても良いです。こちらは心の奥底に渦巻く感情を基にした判断を表しています。

理と情今回、イギリス国民の過半数がEU離脱という、一見して不条理とも思える行動を取った原因は上述した「情」にあると思っています。

そもそも今回の残留派vs離脱派によるキャンペーンは、マーケティング的に分析するとどちらも「恐怖訴求」に分類されます。「恐怖訴求」と書くと何かおどろおどろしいモノに感じられるかもしれませんが、マーケティング戦略では良く用いられるものです。「あなたの心にある【不安】や【恐怖】を解決してしてあげますよ」と訴求するやり方ですね。

例えば保険商品などは典型的な「恐怖訴求マーケティング」が実施されることが多いものです。「今▲▲ガン保険に加入しておかないと、イザという時に金銭面でとても苦労しますよ」という売り口がそうです。そこまで重い商品でなくても例があります。例えば基礎化粧品メーカーなら「何もしていでおくとシミだらけの醜い顔になってしまいますよ」というような訴求です。ここまで直接的でなくても、日常の商品やサービスを見回すと、こういった「恐怖訴求」を見つけることは簡単だと思います。この「恐怖訴求」手法、上手く作用すると、とてもパワフルです。

話をイギリスEU離脱に戻します。今回は残留派も離脱派もそれぞれがこの「恐怖訴求」を使って国民に訴えていました。キャメロン首相をはじめとする残留派が主に訴えていたのが「残留しなかれば、これだけ職が無くなるかもしれない。これだけ税金が上がる可能性がある。」といった、論理的には正に「理」にかなった訴求でした。

一方で、前ロンドン市長であるボリス・ジョンソン氏をはじめとする離脱派の訴えは以下の一点に尽きました。「EUに留まれば、今後も移民が殺到する」という恐怖シナリオです。残留派との違いは、人々の「感情」に大きく訴えたという点。「理屈」や「論理」は置いておき、「とにかく移民のせいで大変なことになってしまう」というシンプルな「シングル・イシュー」作戦です。どちらがよりパワフルに人々の心を動かしたかは、今回の国民投票で証明されています。

近年日本でも似たような「シングル・イシュー」作戦をとって、民衆を熱狂させた政治家がいましたね。元首相である小泉純一郎氏です。小泉さんは「郵政を民営化するのか、しないのか?」という一点突破で選挙を大勝利に導きました。この時に多くの国民が熱狂して自民党に票を入れたのは「郵政民営化=既得権の打破」と捉えたからだと思います。

また脱線したので、イギリスに話を戻します。論理的に考えれば、多くの有識者が様々な場面で語っているように、イギリス国民にとっては残留が「理屈として正しい」選択だったように思います。しかし、現実には過半数のイギリス国民は、自分達の「感情」の「情」に従ったということです。

人は「Needs」より「Wants」にお金を使う

今回のこの事件はマーケティング戦略を立てる上であることを教えてくれます。特にBtoCと呼ばれる一般消費者を顧客にした商売で有効なことです。

それは人は「ニーズ(Needs)」よりも「ウォンツ(Wants)」に対してより多くのお金を使うということです。

私が普段提供している、マーケティングの考え方を基にした社員育成研修では、対象が一般社員であり、話がややこしくなるので、実はこの「ニーズ」と「ウォンツ」を敢えて分けないで研修をすることが多いのです。しかし、例えばマーケティング部員の社員の方に話をする時には必ず分けて話をします。

「ニーズ」とは文字通り「必要なもの」ということです。一般消費財にあてはめると、例えばトイレットペーパーや洗剤といったものを購買する時の大きな理由付けとして「今、必要だから」ということになります。

「ウォンツ」は「必要だから」という理由は全くあてはまらない事が多いです。例えば「この腕時計、ど~~しても欲しいっ!!」というような、理由は明確でなくても、とにかく「欲しい」と思う強い欲求を指します。

人は「ウォンツ」を感じた際には「ニーズ」を感じた場合よりもより多くのお金を使います。

これを説明するために、最近ネット上で発見した、あるアメリカの食品メーカーのマーケティング・キャンペーン事例をご紹介します。

この会社の主力商品は「ベビーキャロット」と言う、日本ではあまり馴染みはないですが、人参を小さく一口サイズに加工してスナックのように食べられるようにしたものです。(私も結構好きで、アメリカ留学時代にはたまにスーパーで買っていました。)この会社の売上げがあまり芳しくなかったので、社長主導で「ジャンクフード・キャンペーン」というマーケティング施策を行ったところ大成功して、売上げは前年対比で10%以上も伸びたそうです。

この「ジャンクフード・キャンペーン」とはどういったものであったかと言えば、単純で「ジャンクフード(ハンバーガー等のファストフード)のように食べよう!」と訴求したのです。それまで同社は「キャロット=人参は健康に良い」という訴求をしていました。しかし、ここが私達人間の面白いところで、「健康に良いから野菜を取った方がいい」と頭では理知的に、理屈として理解しているものの(これが正に「理」の部分です)、時として「どうしてもチーズたっぷりのハンバーガーが食べたい!」という感情の欲求には勝てないことがあるのです。

「欲しい!」を掘り起こそう

今回のイギリスEU離脱と上記の事例が示す通り、ひとは時として「不条理」な行動をするものです。そして、その「不条理」とも思える行動の中には多くの場合、「これは絶対に嫌だ!」や「これ欲しい!」というシンプルかつ強烈な欲求が潜んでいるのです。

つまり、何かモノやサービスを大きく売ろうと思ったならば、この「欲しい!」という強烈な欲求を発生させるようなコトをしなくてはダメだということです。ここでは深堀しませんが、この「欲しい!」を呼び起こすために有効なのは共感・感動できる(これが「情」の部分です)「ストーリー」をつくるということです。

いかがでしょうか?今回はイギリスEU離脱という歴史的事件から、マーケティングにおける「ニーズ」と「ウォンツ」の違いを考えてみました。

【小暑】7/7~7/22

時節が変わって「小暑」です。梅雨が終わり、本格的な暑さがやってくる頃。暑中見舞いを出す頃でもあります。夏バテにならないように備えましょう。

旬のモノ

  • 獅子唐辛子~ししとうがらし
  • 鱧~はも
  • 李~すもも
  • 大蒜~にんにく
  • 鮑~あわび
  • 鱸~すずき
  • レタス
  • ズッキーニ
  • 虎魚~おこぜ

【いま最高に旬な食材を食べて、薬要らず・カゼ知らずのカラダに!】